200頁で二段組み。三人の鼎談で図も多いとは言え、十分な量である。これだけ話せば、たいていのネタは出てくる。実は、養老孟司入門書として最適である。1997年というのも、養老が思想家として言いたいことはほぼ言い切った時期かもしれない。お値打ち価格の本である。
例えば、言語と心身論の関係について。心身論とは、人間を機能=精神=聴覚的に考えるか、実体=身体=視覚的に考えるかの違いであり、議論は平行線を辿る。一方、言語は視覚と聴覚の辻褄を合わせるための発明であり、両者は折り合いを付けている。従って、折り合いを付けてある言語によって、折り合いの付かない心身論を扱っても、それは無理というものである。こういうことは、本書を読んで初めて理解できた。いや、逆に、折り合いをつけてある言語を使って考えるのだから、心身論に折り合いをつけることができるのではないか、とも考えられるが、いかがだろうか。
テーマに即して言えば、三者三様に、「解放されたい感」を持っている。中立的な思考の軸を求めているのである。養老はもちろん死体だし、荻野・松原は、一括りにして恐縮だが、中世文学だった。死体といい、中世文学といい、いずれもウラ、ネガの話である。
意外と養老の教養が広いことが分かったり、リサイクルネタも少ない。もっと増版して良いと思うのだけれど、文庫化される気配もない。
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死の発見: ヨーロッパの古層を訪ねて 単行本 – 1997/9/26
いつか必ず人のくぐる死の門は,今どこに置かれているのだろう.見えない現代の「死」の背後にひそむ文化史・精神史を考える.西欧中世に氾濫する死の図像から,日本の葬送慣習まで,死に処する態度はそれぞれの文化の基礎にある時間感覚・歴史観を物語っている.「死」の顔をめぐる,西洋史と解剖学の奥深い知見を,小説家の想像力が撹拌する問答体「現代文明批判」.
- 本の長さ205ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日1997/9/26
- ISBN-104000233165
- ISBN-13978-4000233163
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
隠された現代の死。歪んだ時代の顔が、「死の鏡」に映る。フランス中世研究の碩学と、文明を解剖する解剖学者。両者の博識を小説家の想像力が結び、現代の意外な断面を発見。ヨーロッパの歴史を解剖する、三酔人警世問答。
登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1997/9/26)
- 発売日 : 1997/9/26
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 205ページ
- ISBN-10 : 4000233165
- ISBN-13 : 978-4000233163
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,045,143位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 2,855位ヨーロッパ史一般の本
- - 26,409位宗教 (本)
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著者について
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1956年11月7日生まれ。1991年『背負い水』で第105回芥川賞を受賞。2001年『ホラ吹きアンリの冒険』で第53回読売文学賞を受賞。2008年『蟹と彼と私』で第19回伊藤整文学賞を受賞。慶応義塾大学文学部フランス文学科教授。(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 殴る女 (ISBN-13: 978-4087713183)』が刊行された当時に掲載されていたものです)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2006年8月11日に日本でレビュー済み
死の問題を、現代において最前線において見つめる解剖学者と、中世研究の歴史家とが、それぞれの専門の知識を踏まえつつ縦横無尽に論じ合う。しかし、特に養老氏はそうであるが、専門分野に納まらない該博な知識の赴くまま、論じられる領域はどこまでも広がっていく。実際、「ヨーロッパの古層を訪ねて」とあるように、ヨーロッパにおける「死の観念」の変遷を主軸にした対談であるが、話題は日本にも、現代にもかかわるものへと広がっていく。養老、松原両氏の文字通り「知の饗宴」を十分堪能できる一冊。とにかく、黴の生えた古臭い知識を後生大事に守っている専門馬鹿のロートル先生ではない、本物の学者の底力を十分知ることができる、好著。三人の鼎談のもう一角、荻野アンナ先生は、この二人の前にあっては如何せん、子ども扱いであるが、若いから仕方がないか?
本書、小生は文句なく推薦の一冊であると思いますが、しいて言えば、内容が多岐に渉り、それぞれの話題の密度が濃いために、出てくる話題に関して、ある程度の知識を持っていないと少々難解かもしれません。ですから本書は、死の問題について考える際に、入門編として推薦することはできません。ヨーロッパの思想史について、そこそこの知識があったほうが、楽しめる本です(大学の教養課程程度の知識は、最低限の前提となっています)。それは、テーマ自体が、そもそもこの一冊に収めるには無理があるためと言うべきでしょう。ですが、死の問題について歴史的、思想的、文化的に内容の濃い本が少ない現状からも、本書はお勧めです。はっとさせられる、鋭い問題提起がいくつも示されています。
本書、小生は文句なく推薦の一冊であると思いますが、しいて言えば、内容が多岐に渉り、それぞれの話題の密度が濃いために、出てくる話題に関して、ある程度の知識を持っていないと少々難解かもしれません。ですから本書は、死の問題について考える際に、入門編として推薦することはできません。ヨーロッパの思想史について、そこそこの知識があったほうが、楽しめる本です(大学の教養課程程度の知識は、最低限の前提となっています)。それは、テーマ自体が、そもそもこの一冊に収めるには無理があるためと言うべきでしょう。ですが、死の問題について歴史的、思想的、文化的に内容の濃い本が少ない現状からも、本書はお勧めです。はっとさせられる、鋭い問題提起がいくつも示されています。